カキツバタの育て方

カキツバタの育て方

日本や朝鮮半島、東シベリアなどが原産といわれるカキツバタは、7世紀頃には既に観賞用の植物として人々の目を楽しませていたといわれており、この時代には独特な花の形がツバメ(燕)が飛ぶ姿に似ていたことから「燕子花」と漢字表記されていました。

カキツバタの育てる環境について

日本や中国、朝鮮、シベリアなどの湿地帯を生息地とする植物であるカキツバタは、高い耐寒性や耐暑性を持っているので、気温はあまり気にせず育てることができます。普通の植物と同様に葉で行われる光合成によってつくる養分を使って成長するので、当然、太陽光のたくさん当たる日当たりのよい環境を好みます。

ただし、湿地帯を生息地とするカキツバタは乾燥に弱いので、日当たりが良くても常にたっぷりの水が供給される水辺や湿地帯が栽培するのに適した環境といえます。このため、この植物は普通の作物をつくる菜園(畑)で育てることに適していないので、

どうしても地植えをしたいときには湖沼や湿地帯、休耕田などの湿気が多くて日当たりのよい場所を探して植える必要がありますが、趣味で楽しむ程度ならば植木鉢やプランターに植え、擬似的に湿地帯のような環境をつくってあげるだけで栽培することが可能です。

具体的には園芸用の植木鉢やプランターに苗を植えたものを、たっぷり水の入った水槽のような容器に入れて沈め、地上に葉や茎がでるくらいの水位を維持しながら育てます。ただし、いくら暑さに強くても水温が上昇し過ぎると成長に悪影響が生じるため、

特に水温が上昇しやすい夏期には頻繁に水を交換するなどの対策を行う必要があります。冬になると地上の茎や花はすべて枯れてしまいますが、養分を蓄えた球根を地中に残したまま冬を越えることができるので、次の年もキレイな花を咲かせたい場合には冬でも水量を維持して乾燥を予防するのが正しい育て方です。

種付けや水やり、肥料について

カキツバタは種から栽培することができますが、花が咲くまで3年ほどかかってしまうので、家庭で栽培する場合にはポット苗を購入して植え付けて育てるのが一般的な育て方です。植え付けは1年中いつでも可能ですが、水が凍結しやすい真冬や水温が急上昇しやすい真夏に植えると、

せっかくの苗をダメにしてしまう可能性が高いので、できるだけ避けたほうがよいでしょう。池などの水辺のない一般家庭では地植えで育てるのは難しいので、植木鉢やプランターに園芸用でよく使われる草花向けの培養土を入れたものを用意してポット苗を植え付けて育てます。

肥料は苗が根付くまではほとんど不要なので、完全に根付くまで待ち、秋ごろの涼しくなる時期にゆっくりと溶け出して効果を発揮する緩行性の固形肥料を株元の土の中に埋めておくと程度で十分です。植木鉢やプランターに苗を植えて育てる場合には、

水の入った大きめの容器(水槽でも可)を用意してその中に鉢植えやプランターを沈めて水の中で育てるので水やりの手間はかかりませんが、乾燥しないようにするためには水深5~15cm程度を維持する必要があるので、こまめな水位の管理が必要になります。

通常は水位が下がってきたら頻繁に水を供給して水位を維持するようにしますが、1ヶ月に1度はすべての水を入れ替えてリフレッシュさせます。特に夏場は日当たりのよい場所に置くと、水温が急上昇してカキツバタの成長に悪影響が生じたり、

水分の蒸発によって水が減りやすくなったりするので、日差しの強い真夏は一時的に日陰に避難させたり、植木鉢やプランターを入れている容器の水を頻繁に変えるようにするなど、細心の注意を払って水の管理をしましょう。

増やし方や害虫について

カキツバタは花が咲いた後にできる実をそのままに育てると種ができます。この種を植えると3年程度で花が咲きますが、これでは非常に効率が悪いので株分けをして増やすのが一般的です。株分けとは、カキツバタの株を小さな子株に分割して新しい植木鉢やプランターに植え替える増やし方で、

花が咲いた直後(花後)の6月ごろに行うのがよいとされています。分割する子株は2~3つの新芽がついたものを選び、株分けの際には子株の葉を半分くらいの長さに切り詰めておきます。新芽は翌年に開花する芽なので、来年に向けて大切に育てましょう。

鉢植えやプランターで栽培しているものを子株に分割するときには現在使用している古い土を丁寧に落とし、その後、新しい培養土を入れた植木鉢やプランターに入れて植え付けていきます。なお、株分けしない場合でも植木鉢などで長期的に育てる場合には、

根詰まりを防止するために2~3年ごとに植え替えが必要となります。カキツバタは害虫の被害に見舞われることはほとんどないといわれていますが、ハナショウブと同様に茎を食べるズイムシ(ニカメイガなどのメイガ科の幼虫)が侵入して茎を枯らす被害も確認されているので、害虫対策も念のためしておくと安心です。

観賞用の植物であるカキツバタは、オルトランなどの長期間持続しやすくてメイガ類もしっかりと撃退してくれる浸透性(浸透移行性)の殺虫剤が使いやすいので、害虫の被害が心配な場合には防除のために4月、6月、9月頃を目安に何回か殺虫剤を散布してもよいでしょう。

カキツバタの歴史

日本や朝鮮半島、東シベリアなどが原産といわれるカキツバタは、7世紀頃には既に観賞用の植物として人々の目を楽しませていたといわれており、この時代には独特な花の形がツバメ(燕)が飛ぶ姿に似ていたことから「燕子花」と漢字表記されていました。

これは7世紀後半~8世紀前半頃の和歌を集めて編纂された万葉集にカキツバタの歌が収録されていることからも裏付けられており、古くからカキツバタが日本人にとって特別な花であったことがうかがわれます。9世紀後半~10世紀前半にかけて編纂されたといわれる

伊勢物語には、主人公のモデルとされる在原業平が東下りの最中に三河国の八橋の沢に咲きほこるカキツバタに心を打たれて詠んだという歌が収録されており、この歌の影響で憂いを感じさせる優美さを持つこの花のイメージがこの時代にできがったとされています。

カキツバタは江戸時代前半ごろには園芸用の植物として数多くの品種が成立するなど一般庶民の間にも広く浸透するようになり、日本画のモチーフにも数多く採用されています。特に、17世紀後半から18世紀初頭にかけて活躍した江戸時代を代表する日本画の

絵師・尾形光琳は、カキツバタ(燕子花)の優美さに魅了されて数多くの作品を遺したことでも知られており、中でも18世紀初めの描かれたとされる『燕子花図屏風』は国宝にも指定されています。

しかしながら、江戸時代後半には人々の関心はハナショウブに移り、それ以降はカキツバタは衰退していきましたが、昭和の時代になると次々と新品種が生み出され、現代ではその優美な花に魅了され、熱心に栽培する園芸家も数多く存在します。

カキツバタの特徴

カキツバタはアヤメ科の多年草で日本では北海道から九州まで広く分布し、5~6月にかけて水辺や湿地帯に群生して咲いているのを見ることができます。一般的な品種では、青紫色の花が細長い茎の先端に2~3輪程度つくのが特徴で、草丈は50~80cm、花の大きさは12cm前後まで成長します。

カキツバタの花被片(花びら)の枚数は6枚で、細くて直立している内花被片と前面に垂れ下がっている外花被片で構成されています。外花被片の真ん中には白(黄色)の筋模様が一本入っているものが一般的ですが、花びらの色や模様は品種によって微妙に異なります。

花は一日咲いたらしぼんでしまう一日花なので、栽培するときには咲き終わった花を摘み取っておきます。葉は剣型をしていて根本から上方に向かってまっすぐ生え、中央の葉脈(主脈)はほとんど目立ちません。花が咲いた後には実ができますが、

熟すと放射状に下の部分が裂けてそのまま地面に散らばり、野生ではそのまま自然に増えていきます。ちなみに、カキツバタは三河国の八橋(現在の愛知県知立市八橋)に咲いていたという伊勢物語の記述から愛知県の県の花として愛されています。カキツバタは野生のものとは花弁の色や模様が異なる園芸用の品種も多く存在しており、

鉢植えやプランターに苗を植えて家庭で手軽に栽培できる品種もたくさんあります。園芸用の品種は園芸家にも人気がありますが、野生種は生息地である沼地の減少の影響で数が激減し、環境庁のレッドリストに準絶滅危惧種(NT)として登録されており、全国の沼地や湿地で保護活動が行われています。

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